誤解されつづける周恩来10、黄埔軍官学校(下)

南方の「革命根拠地」を国民党軍の包囲討伐から逃れて、気息奄々と陝西省延安に生き延びた共産軍をさらに討伐せんと、蒋介石は張学良の東北軍と楊虎城の西北軍を差し向けますが、秘密共産党員だった張学良はあまり乗り気ではなく、あまつさえ共産党軍と将兵の交流会を持ったりするほどでした。


画像

張学良と楊虎城


業をにやした蒋介石は自ら西安に乗り込み陣頭指揮をとろうとします。1936年12月12日、その蒋介石が療養中の楊貴妃の故事で有名な華清池で張学良の手下に囚われる、といういわゆる「西安事変」が勃発します。



画像

蒋介石が捕らえられた洞窟



蒋介石は一切の妥協を拒み、まず自身を解放することが交渉の前提であると譲りません。そこへ登場するのが周恩来です。



周恩来は、蒋介石に「校長」と呼びかけます。それはもちろん黄埔軍官学校時代の上司に対する呼称でした。



周の情理を尽くした説得に蒋介石はとうとう再度の国共合作と「抗日」に同意させられます。ことの経緯の真相は周と蒋の二人のみぞ知る、ですが、二人の第一次国共合作時代の記憶が、その交渉の際の助けとなったことは想像に難くありません。



黄埔軍官学校時代には、立場をまったく異にする、すなわち蒋介石が周恩来の息の根を止めかけた事件もあったのです。その事件の経過を通じ、蒋は周の政治力を思い知ったという事もあるでしょう。



その事件とは世に名高い「中山艦事件」です。



1926年3月20日に発生した「中山艦事件」の真相は未だ闇の中です。その事件の前年にはいわゆる「530事件」が上海から広東・香港に飛び火して、共産党は大いに気炎を上げました。



国民党内に張り巡らされた共産党の網を苦々しく思っていた蒋介石は、ついにその尻尾を捕まえることになりました。



画像

                  中正・蒋介石





中山艦は、当時の広東革命政府の最大の軍艦で、蒋介石の乗艦でもありました。当時、海軍局の代理局長は共産党員の李之龍でした。



以下、司馬氏を引用します。



省都の埠頭に停泊していた中山艦は18日夜、命令もないのにひそかに黄埔に航行し、李之龍が蒋に電話をかけて、いつ黄埔をはなれるかとたずねた。そのことがすでに蒋の疑惑をかりたてた。艦は19日午後、省都(広州)にひきかえしたが、終夜出航できる態勢にあった。蒋は中山艦に陰謀ありと判断して20日早朝、広州衛戍指令の名で戒厳令をしき、李之龍を逮捕した。



そして兵をくりだして軍艦を占拠させ、共産党の労働者糾察隊の銃器を押収、ソ連人顧問護衛隊の武装を解除し、あわせて第一軍のなかの共産党政治工作員50余人をすべて拘禁した。



周恩来は、広東地区委員会軍事部長、黄埔軍官学校政治部主任(そのころはすでに副主任から昇進)、第一軍政治部主任として、かねて直接蒋と接触をたもっていたもっとも地位の高い中国共産党員であり、しかも逮捕者および拘禁者は、共産党の工作系統からしても、すべてその指揮下にあった人々であった。



画像

                     中山艦


すなわち、蒋介石のこの上からの兵変は、共産党に対する予防クーデターの色彩濃厚で、その打倒対象は周恩来その人であったということです。



普通の人であったなら、ここで共産党は壊滅しそのごのシナ革命史はまったく違った様相を呈していた事でしょう。



しかし周恩来はまだ28歳の若者でしたが、実に並外れた政治力を発揮するのです。



彼は共産党(上海中央とコミンテルン)と国民党双方に釈明し、囚われた同志を救い、ソ連人顧問団の査問にも応じなければならなかったのです。



ソ連側の意向は合作を継続し国民党との決裂を避けよ、というものでした。



まずはソ連人顧問団と蒋介石を訪ね詫びをいれ、蒋を打倒せよと騒ぐ共産党員を静めなければなりませんでした。



蒋に全ての職を解かれたにも関わらず、悪びれず顔色さえかえることなく蒋に事件のことを相談しかける周に対し、蒋は態度を和らげ、周をしてあらたに政治訓練班をつくらせ、共産党員の再訓練をさせることにし、周をその主任にさえ任命するのです。



その三ヵ月後、いわゆる「北伐」の兵をおこす国民革命軍に共産党の勢力はうまく温存されたわけです。



この事件から、二つのことがわかります。



一つは、周恩来の敵との交渉能力の高さ。その堪え難きを堪える忍耐力と精神力はその後の歴史の中で、幾度と無く繰り返されるでしょう。



二つ目は、蒋介石のここぞというときのもう一歩の踏み込みの足りなさ。入らぬ妥協をしてしまう、いわばお人よしの点も、もうすでに顕れています。




この両者の性格がよく再演されるのが「西安事変」でした。この件、後ほどしかるべきところで再度述べたいと思います。



人気blogランキングへ参加しました。よろしければ応援のクリックをお願いします。
画像

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック