【シナの変容】 マニ教から明教へ

さて、物語はまた武照・武則天へと帰る。彼女が大周革命、あるいは武周革命を成功させたのが690年であり、その革命イデオロギーが弥勒信仰であったことは、すでに述べた。その武則天を宮廷にたずねたものがいる。ミフル・オルマズドというマニ教徒教師であった。彼は直接に武則天にマニ教義を説き布教を許された。694年のことであった。



それ以前には、すでにゾロアスター教(シナ語では、祅(けん)教、または拝火教)が631年に、景教とよばれるキリスト教ネストリウス派が635年に伝来していた。



これらのことから、唐という王朝が西にたいしてはその門戸がいかに開け放しであったかが知れる。それはやはり鮮卑という皇帝の出自によるものであろう。



さてその唐のまえ、南北朝時代の南朝に梁という国があり武帝(464―549年)という仏教好きの皇帝がいた。親しく達磨大師を接待して教えを請うたという。その武帝の時代、傅大士(497-569年、淅江人)というもの24歳のときに(マニが啓示を受けた年齢と同じ!)仏の啓示をうけ、弥勒教というものを建てていた。世人が弥勒の化身とあがめ、武帝もこれを召見したという。



同じころ、北朝の北魏の宣武帝のころ(515年)に山東省で法慶というものみずから「新仏」と称して乱を起こした。この「新仏」とは「弥勒下生成仏」のことですなわち弥勒と同義である。これを世に「大乗の乱」という。



このように武則天の弥勒革命には前史があったのである。ミフル・オルマズドが武則天にマニ教義を説くにあたり弥勒をひきあいにだしたことが容易に想像される。武照は、マニ教を弥勒教のようなものと理解したものであろう。


そしてその後はこの二つの宗教は融合して行く。そもそもマニ教の始祖マニが最初に伝道したのはインドであり、その際すでに仏教をその教義に取り入れていたらしい、マニに啓示をあたえた精霊を弥勒であったと述べたかもしれない。それゆえシナへの布教も容易であったものと思われる。



以前にものべた「安史の乱」の際、唐へ支援軍を派遣して介入したウイグル族は、その軍功により唐王朝から西域貿易の特権を受け、マニ教を国教として一時はモンゴル高原からタリム盆地までふくむ遊牧ウイグル帝国を建て絶頂を迎える。しかしこれは唐との密接な関係があるとはいえ、シナのことではないので深くは触れない。ただマニ教というものが当時いかに流行したものであるかを知ればよい。



さらに唐においては、武照により革命イデオロギーとして公認された弥勒信仰(マニ教も含むであろう)は、かなりその信仰を広め、詩人・白楽天もマニ教徒だったといわれている。ハイカラ好みの白居易らしい。



しかし唐が復活した後は、邪教として弾圧される。開元20年(732年)のことであった。武照の弥勒革命にたいする反動ともいえよう。


さらにマニ教(弥勒教)にかぎらずすべての(仏教をふくむ)外国伝来の宗教には過酷な運命が待ち受けていた。敬虔な道教徒であった唐武宗の会昌年間(841-846年)における「会昌の法難」という道教以外の宗教排斥運動がそれである。廃仏としては仏教寺院4600余りが廃され、僧尼26万人余りが還俗させられたという。また多くの仏典も失われた。



これらの弾圧により、マニ教(弥勒教)は、シナ社会の低層へと潜伏することになり、その名を明教と改めた。そして仏教よりも道教をより多く取り入れることになった。それゆえ民間秘密宗教の色彩を強め、光明を崇拝し日と月をあがめ、明王(弥勒)の出世を待ち望む現世救済の思想となった。


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さらに救世主(メシア)待望という面ではほとんど同じ教義内容を持つ弥勒教との融合が進み白蓮教が宋代には成立する。


そして明教自体は、宗教的には世界帝国を維持するために宗教には寛容であったモンゴル人のシナにおける王朝・元においては、福建省の泉州と浙江省の温州を中心に信者を広げていた。両地域とも海へと開かれた港湾都市であり、とくに泉州はイスラムの流入が多く見られた。



そしてその元朝の寛容さが災いしたのか、元末の「明王出世、弥勒下生」をスローガンと叫ぶ「紅巾の乱」となって、その政治的・宗教的・社会的影響力の絶頂を迎えることになるのであった。


その乱の主役は、白蓮教とも明教(「明」の字を分解して「日月」教ともいわれた)ともされているが、そのころはもう教義的にも組織的にもほとんど区別のつかないものとなっていたのであろう。「紅巾の乱」の中から立って明王朝を建てた乞食坊主出身の朱元章は、その開闢した王朝名から、仏教ではなく明教の僧だったともされている。





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